【解説】TAG TEAM パッケージ

よくよく説明してもあまり響かないようなので、フィジカルなプリントを実見する機会を作った意味を書いておきます。

会場奥のピカゼク巨大出力。
文字が入っているのでバナーとして素通りされがちですが、入り口のパッケージサイズ並びに制作サイズ原寸出力と続けて比較してご覧下さい。通常デジタルの絵はこれだけ引き延ばせばどこかに破綻が感じられますが、それが感じられないのはベースが手描きの鉛筆画だからです。リリース当時パッケージを見てこんなに鉛筆の線があらわに残されていることに気付いた人はいなかったと思います。3DCGのように感じたことでしょう。

大きなサイズのプレイマットやボックスに従来からの私の絵に感じる手描き感を感じた人はいたかもしれませんが、TAG TEAMではそれ以前の私の作品より更に作り込んだ鉛筆画を大きなサイズで、単体でも完成に近いものを描いています。鉛筆画ピカゼクスリーブや、PVを見て頂ければどのようなものか確認できます。

なぜ、こんなにも大きく手の込んだ鉛筆画が必要だったのか。
ゼクロムの鋳造鉄のような重厚な存在感。効率よくデジタルで塗れば簡単に、無自覚に塗ってしまえます。それを避けるためあえて存在を強くイメージしながら一本一本ストロークを重ねなければ描けない鉛筆画で原画を描きました。パッケージサイズで見たときに3DCGと対等な立体感、存在感を担保するためです。一方で、ピカゼク巨大プリントの前で、3DCG味を感じる人はいないでしょう。

同じ絵を使いながら、サイズや支持体(印刷される素材)によって全く手触りが変わる。
これを実現するために、実寸の数百倍拡大した場合と、パッケージのサイズ、質感、発色を想像しつつ、作業ペースと負担も考慮して、展示されているB2サイズで、グレースケールでみれば完成品に近いところまでを鉛筆画で制作することを決定しました。展示したすべてのパッケージイラストは同様に鉛筆画の比重の高い制作手法を取っています。

1996年のデビュー当時からデジタルの最大の可能性はアナログ素材とCGI(Computer Generated Image)、全てを取り込み得ることだと思っていました。TAG TEAM パッケージアートではデジタルデータとしてアナログ素材を取り込んだだけでなく、それが再び出力されて物理的な存在に戻ったとき、鑑賞者が何を感じるかまでを踏まえて、出力機を自分の絵筆として制作することがコンセプトでした。

このゴールに向けてあの大きな鉛筆画を描いているの、最高に面白くないですか?未来永劫不可能でしょうが、鉛筆画も並べて展示したかったです。手描きの技術と3DCG制作の経験、理系出身のテクノロジーに対する理解を統合したひとつの集大成になったと考えています。

The Pokemon Company International ロンドンオフィスで大きな店頭ポップをみて、このコンセプトが実現できていたことを自分の眼で確認できたのは、制作開始から1年後でした。世界中で、どのような材質にどのようなサイズで印刷されるかわからないポケモンカードの仕事だったからこそ、これだけ大掛かりな構想と仕掛けをする意味を感じて制作することができました。この仕掛けに気づき、指摘する人はいませんでしたが、ひとりで国内・国外すべてのパッケージを担当するにあたり、3DCGが好まれる国外の市場でも受け入れられ、なおかつ手で描いた意味がある、という要求には十分に応えたのではないかと自負しています。

多くの方に足をお運びいただき誠にありがとうございます。今回、会場側の多大な協力とボランティアスタッフによりなんとか運営できていますが、個人企画の無料展示として別の機会を設けることは極めて難しいと感じております。

土日は仕事で行けないと言う方のために、最終日17日(金)も在廊することにいたしました。この機会にご来場いただければと思います。

【展示】有田満弘「ポケモンカードゲーム サン&ムーン」シリーズ TAG TEAM 全パッケージ展